手術に使う器械の「洗浄・消毒・滅菌」ってどう違うの?
手術室で働くと、どんな業務でも「清潔」「不潔」の細かな知識が必要です。
「清潔」「不潔」をしっかり理解していないと安全に業務も看護もできません。
なので今日は、オペナースの基礎知識としてとても大切な
- 洗浄
- 消毒
- 滅菌
についてわかりやすく説明します。
特に新人オペナースは「器械出し」から業務を覚え始めることが多いです。
「器械出し」でも「洗浄・消毒・滅菌」の知識はとても重要です。
「洗浄・消毒・滅菌」をしっかり理解することで、ひとつひとつの業務を正しく行うことができますよ。
オペナースの基礎知識「洗浄・滅菌・消毒」を行う目的は?
手術室ではいろんな器械や医療材料を使用して手術を行っています。
手術に使用するものは、1度きりの使用(単回使用)で破棄するものもありますが、多くの器械はふたたび「滅菌」して使用しています。
手術をうける患者さんを感染から守り、高額で数の少ない器械をふたたび手術で使用するために、「洗浄・消毒・滅菌」を行っています。
「洗浄・消毒・滅菌」を行う目的は、感染の原因になる微生物を感染が発生しない量まで取り除くこと
人間の体は、正常な状態では皮膚や粘膜で感染から守られています。
でも手術は、体内のバリア機能がない無菌の部分で行います。
だから非常に感染がおこりやすい状態です。
なので手術に使用される器械や医療材料は、適切に「洗浄・消毒・滅菌」されたものを使う必要があります。
患者さんを感染から守るために、「洗浄・消毒・滅菌」の知識はオペナースにとって基本中の基本で、とても大切な知識なんです。
オペナースの基礎知識「洗浄・滅菌・消毒」はスポルディング分類で決まる!
患者さんに使用する医療器具は「からだのどの部分に使うのか」「器具の使い方」によって、どのように「洗浄・滅菌・消毒」するのか、「スポルディング分類」で分かれています。
まず分類表を紹介しますね。
スポルディング分類 | 処理方法 | 器材 |
---|---|---|
クリティカル器具 | 洗浄+滅菌 | 手術器具等 |
セミクリティカル器具 | 洗浄+高水準消毒 ・グルタール ・フタラール ・過酢酸 洗浄+熱水消毒(93℃10分間) 洗浄+中水準消毒 ・0.1%次亜塩素酸ナトリウム | 内視鏡等 |
ノンクリティカル器具 | 洗浄+熱水消毒(80℃10分間) 洗浄+低水準消毒 ・アルコール ・0.02~0.05%次亜塩素酸ナトリウム ・第4級アンモニア塩 ・グルコン酸クロルヘキシジン ・両界面活性剤 | 血圧計・マンシェット・聴診器・体温計等 |
スポルディング分類では、病院で使う器具を「クリティカル器具」「セミクリティカル器具」「ノンクリティカル器具」に分類しています。
手術に使用する器具は「クリティカル器具」に分類されます。
クリティカル器具 | 人体の無菌の組織や血管系に使用する器具 |
セミクリティカル器具 | 粘膜面または健常ではない皮膚に接触するするが、体内の無菌部分には侵入しない器具 |
ノンクリティカル器具 | 健常な皮膚にのみ接触する器具 |
それぞれ器具の分類ごとに「洗浄・消毒・滅菌」の処理方法が決まっています。
体のどの部分に使うのかによって「洗浄・消毒・滅菌」の処理方法がそれぞれ違うということを覚えていきましょう!
オペナースの基礎知識「洗浄・滅菌・消毒」の洗浄とは?
それでは手術室で使用する器械に実際に行われている「洗浄」がなんのために、どのように行われているのかを説明しますね。
洗浄とは?
洗浄とは 「有機物を落とすこと」です。
洗浄が不十分で、器械に有機物の付着が残っていると正しく滅菌されません。
手術に使用した器械はもちろん洗浄が必要です。
そして手術のために準備したけれど体内に使わなかった器械でも、 飛んだ血液などが付着している可能性があります。
手術の器械台に準備された器械をふたたび滅菌するためには、滅菌前に洗浄が必要です。
洗浄の方法は?
器械に付着した血液や体液をしっかり落とすために、洗浄の方法は決まっています。
希釈した酵素洗浄剤に10分以上つけおき(浸漬)してから手洗いか、洗浄機で洗います。
器械の中には液体につけられないものもあります。
液体につけられない器械は別の方法で血液や体液を洗浄する方法があります。
高価な器械が壊れてしまうので、薬液につけおきできないものを覚えておく必要があります。
オペナースの基礎知識「洗浄・滅菌・消毒」の消毒とは?
手術室ではよく「消毒」という言葉を使いますが、「消毒」とはなにか?について説明しますね。
消毒とは、
生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法で、必ずしも微生物をすべて殺滅したり除去するものではありません 。
消毒は環境消毒・器材消毒・生体消毒(手指・術野・創部)に分かれます。
ここでは器材の消毒について説明します。
医療器具は「からだのどこに使うのか」や「使い方」によって、滅菌するのか、どの薬剤を使用して消毒するのかが「スポルディング分類」で決まっています。
セミクリティカル・ノンクリティカルに分類される器具は、洗浄+消毒で再使用が可能な状態にします。
使用する器具が、「消毒レベル」なのか「滅菌レベル」なのかの違いをしっかり理解して、患者さんを感染から守りましょう!
オペナースの基礎知識「洗浄・滅菌・消毒」の滅菌とは?種類と適応は?
手術に使用する器械に実際に行われる「滅菌」とはどのような状態なのか、どのように行われているのかを説明します。
滅菌とは?
滅菌とは、
すべての微生物を殺滅または除去し、微生物を限りなくゼロにすることです。1個の微生物が生き残る確率が100万分の1以下の状態をいいます。
手術に使用する器械は、滅菌することで人体の無菌の組織や血管に使用できる状態になります。
「器械だし」は、手術に使用する前の滅菌済みの器械であっても、汚れが付着していないか、確実に滅菌処理されているかを確認する必要があります。
汚れが付着したまま滅菌しても、滅菌されません。
器械を使用前に点検すると、汚れの付着を見つけることがまれにあります。
しっかり確認して患者さんを感染から守りましょう!
滅菌の種類と適応
手術器具の滅菌方法でよく使われるのは以下の3つです。
- 高圧蒸気滅菌(AC、オートクレーブ)
- 酸化エチレンガス滅菌(EOG)
- 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌(プラズマ)
それぞれの滅菌方法と、適応の器具について説明します。
高圧蒸気滅菌(AC・オートクレーブ)
高圧蒸気滅菌(AC、オートクレーブ)は、
一定の圧力の飽和水蒸気(100℃以上)で加熱して微生物のタンパク質を偏性させて殺滅する方法
鋼製小物・敷布などの繊維・ガラス・耐熱性のプラスチックの滅菌に適応します。
酸化エチレンガス滅菌(EOG)
酸化エチレンガス滅菌(EOG)は、
酸化エチレンガスによって、微生物を構成するタンパク質のアルキル化をおこし死滅させる方法
残留毒性があるので、滅菌に半日以上時間がかかります。
鋼製小物・光学器械・電子器械・ゴム製品の滅菌に適応します。
過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌(プラズマ)
過酸化水素水低温ガスプラズマ滅菌(プラズマ)は、
高度の真空状態にした容器内に過酸化水素を噴霧し、これにマイクロ波を照射することで「過酸化水素ガスプラズマ」を発生させます。このプラズマ現象の活性分子の作用で微生物を殺滅する方法
残留毒性はありませんが、コストが高いです。
鋼製小物・光学器械・電子器械・ゴム製品の滅菌に適応します。
オペナースの基礎知識「滅菌」を確認するインジケーターとは?
インジケーターは正しく滅菌が行われたかを確認するためのものです。
インジケーターには、
- 物理的インジケーター
- 生物学的インジケーター
- 化学的インジケーター
があります。
それぞれ説明していきますね。
物理的インジケーターとは?
物理的インジケーターは、滅菌装置に設置されています。
滅菌中の温度・圧力・時間がリアルタイムで表示され、正しく滅菌が行われているかの確認ができます。
生物学的インジケーターとは?
生物学的インジケーターは、滅菌物を培養して微生物が死滅したことを確認するものです。
滅菌物の中を培養するので、滅菌物を開封して中のものを培養しなければいけません。
培養に時間がかかるため、常に使用できるインジケーターではありません。
化学的インジケーターとは?
化学的インジケーターは、滅菌物の包装内部にインジケーターを同包し、さらに外装や包装のテープ自体がインジケーターになっており、色の変化で滅菌されていることが確認できます。
現在手術で使用する器具の滅菌には、必ず化学的インジケーターが使用されています。
手術に使用する器具を準備するときには必ずインジケーターを確認します。
化学的インジケーターの一例
このように滅菌前後で色が変化するので、何色に変わるのかを覚える必要があります。
高圧蒸気滅菌・エチレンオキサイドガス滅菌・プラズマ滅菌で使用するインジケーターが違うので、色の変化もそれぞれ違います。
それぞれの色の変化を覚えて、滅菌されていないものを間違えて使用しないように気をつけましょう!
オペナースの基礎知識「洗浄・滅菌・消毒」滅菌物の安全保証とは?
滅菌物の安全保証は、
滅菌してから使用するまでの間「滅菌状態が続いていますよ」と保証することをどのように考えるかの基準です。
滅菌物の安全保証の考え方には2通りあります。
- 「時間依存型無菌性維持」
- 「事象依存型無菌性維持」
この2つについて説明していきますね。
時間依存型無菌性維持とは?
「時間依存型無菌性維持」とは、
滅菌の保証は時間がたてば損なわれる
という考え方です。
「時間依存型無菌性維持」を採用している病院では、包装材料や器械の形態に応じて滅菌期限を設定して管理しています。
滅菌の有効期限が外包装に書かれているので、使用する前に有効期限とインジケーターの変色と一緒に確認します。
滅菌物は滅菌の有効期限内でも、外包装の濡れや破れで滅菌状態が破綻します。
なので滅菌物を使用する前に有効期限とあわせて、必ず外包装の濡れや破れがないかを確認します。
事象依存型無菌性維持とは?
「事象依存型無菌性維持」とは、
外包装が濡れたり、破れたりしないかぎり滅菌状態である
という考え方です。
「事象依存型無菌性維持」の考え方を採用している病院では、一度滅菌処理した器械に期限はありません。
滅菌物はほこりがかぶらないようにかごに入れ、棚に収納します。
滅菌物を保管する場所で微生物が繁殖しないように、24時間空調で温度、湿度を管理します。
また結露を防ぐために、滅菌物を保管する棚の位置は、天井から45cm以上、床から20cm以上、壁から5cm以上離して設置しています。
滅菌物はしっかり保管されていますが、外包装の濡れや破れで滅菌状態が破綻します。
使用する前に、外包装に濡れややぶれがないかをインジケーターと合わせて確認します。
病院ごとに「時間依存型無菌性維持」か「事象依存型無菌性維持」のどちらの基準で滅菌物を管理しているのかが違います。
自分が働く病院の基準をしっかり覚えてくださいね!
オペナースの基礎知識「洗浄・消毒・滅菌」とは?のまとめ
この記事では、オペナースとして働くうえで基本的だけどとても大切な「洗浄・消毒・滅菌」についてまとめて紹介しました。
まずは「洗浄・消毒・滅菌」の定義をおさえて、「洗浄」と「消毒」と「滅菌」の違いについて理解してほしいです。
そして手術に使用する器械がどのように「洗浄・消毒・滅菌」されているのかを知ってください。
そのうえで滅菌物が正しい滅菌状態なのか、確実に確認してほしいと思います。
「洗浄・消毒・滅菌」の知識は、患者さんを感染から守るためにとても大切です。
しっかり理解することで、普段の業務のなかでも確認もれがなくなり、より安全な看護を提供できるようになりますよ。
「洗浄・消毒・滅菌」については覚えることがたくさんあります。
この記事が知識の整理と確認の役にたつとうれしいです。
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